UKI EYE『CONTRAST』を聴いて

 「勇気」と「愛」の歌を歌うシンガーソングライターUKI EYEさんが”夏の豪華4曲入り”シングル『CONTRAST』を2020年9月11日にリリースしました。EP『Truly, My First Love』以来、約5ヶ月ぶりのリリースです。

soundcloud.com

 2020年7月25日、ニューシングル『CONTRAST』のリリースとジャケット、トラックリストが発表されました。1曲のみのデジタルシングルや、コンパクトにまとまったオリジナルアルバム・ミニアルバム・EPリリースが時代の趨勢になりつつある2020年に、4曲入りのシングルを世に放つするUKI EYEさんの気概に敬意を払わずにはいられません。ジャケットは、私たちを少し上から見下ろすような、熟視しどこか試すかのような、ただ冷たさだけじゃなく優しさも感じるような、掴めないけれどどこか惹かれるアートワークだと感じました。ジャケット右側の映る十字窓の影のせいか、荒井由実さんの「翳りゆく部屋」が思い起こされました。

 

・翳りゆく部屋 - 荒井由実 (1976)

 SoundCloudでのプレリリースを一週間後に控えた8月28日 、シングルのteaserが公開されます。2曲目の「Living Art」には2020年を代表するアンセム「Rain On Me」への色濃い影響を感じました。

 8月30日18時、UKI EYEさんはSoundCloudでのプレリリース予定日を5日早めるかたちで『CONTRAST』を公開しました。コロナ禍でリリースを後ろ倒しするアーティストも少なくない中、異例の対応でした。#ディーヴァはせっかち
  

 そして2020年9月11日、『CONTRAST』がApple MusicやSpotifyなどの音楽ストリーミングサービスでもリリースされました。今作のリリースにあたり、UKI EYEさんの公式twitterではライナーノーツが投稿され、ブログでは楽曲制作の端緒や制作を通じて感じたこと考えたことがしたためられ、そして楽曲リリースの度に配信しておられるラジオ番組『UKI EYE'S COURAGE LOVE RADIO』では、『CONTRAST』を聴いたUKI EYEさんのリアクションが配信されています。これがとても新鮮で、”ブチアガるわ…”と自身の楽曲を讃える様子などが収録されており、たいへん興味深かったです。音源はもちろん、音源以外の場面でも本作『CONTRAST』を楽しめる仕組みが”対照的に”盛り込まれている企画上手なUKI EYEさんのセルフプロデュース力により一層尊敬の念を抱きました。

 

 今回はそれぞれの楽曲について個人的に影響を感じた、もしくは関連性を感じた楽曲や作品を書いてみます。

 

Track 01: 心の雨

□個人的に影響を感じた、もしくは関連性を感じた楽曲や作品

夜桜お七 - 坂本冬美 (1994)

不穏なイントロ。

 

宇多田ヒカル - 真夏の通り雨 (2016)

 

・雨が降る - 坂本真綾 (2009)

 2009年リリース6枚目のオリジナルアルバム『かぜよみ』に収録されている坂本真綾さんにとって16枚目のシングル楽曲。♯BitchVogueスコア10点を記録する、編集長の中でも思い入れのあるアルバムとして過去に『かぜよみ』を挙げています。(質問の履歴が残っていないため、私の思い違いでどのアルバムから各アーティストの楽曲を聴き始めたかったかもしれません)

 

 ご自身録音された雨音をサンプリングに使うことでフリー素材とは異なる荒々しさがトラックに含まれていて、楽曲の寄る辺なさをより一層強調しています。サンプリングで言えば、精霊流しの爆竹サンプリングもいつかどこかで聴いてみたいです。 

 

Track 02: Living Art

□個人的に影響を感じた、もしくは関連性を感じた楽曲や作品

・Living For Love - Madonna (2015)

・Vogue - Madonna (1990)

・Rain On Me - Lady Gaga & Ariana Grande (2020)

・Babylon - Lady Gaga (2020)

911 - Lady Gaga (2020)

タイトルは緊急通報用の電話番号から。公式リリースが9月11日だったので勘ぐりました。

 

Comme Des Garçons (Like the Boys) - Rina Sawayama (2020)

・N.E.O. - CHAI (2017)

ドラクロワ『7月28日 - 民衆を導く自由の女神』 (1830)

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 フランスのロマン主義ドラクロワの作品『7月28日 - 民衆を導く自由の女神』です。「Living Art」を聴いたときに視覚的にはこの作品が真っ先に頭に浮かびました。1830年7月、武装蜂起したパリの民衆による七月革命の様子が描かれています。怒りを表明し自由を希求する様子が強く打ち出されたこの作品と本楽曲には、通ずるものがあると感じました。この作品は「Living Art」の歌詞の中で登場すルーブル美術館に所蔵されています。

 女神が纏う黄色の衣裳は、二重のベルトで締められ、その先が脇に漂っており、古代のドレープを連想させる。乳房の下に衣裳が滑り落ちて、豊かな腋毛が露になっており、女神の肌は滑らかでなければならないとする古典主義者から、むしろ下品であると見なされた。官能的で写実的に描写された裸体は、実際には有翼の勝利の女神像に結び付けられる。女神のギリシア風の横顔、まっすぐな鼻筋、ふっくらとした口元、優美な顎と、燃えるような眼差しは、室内で《アルジェの女たち》のためにポーズしたモデルを思わせる。男たちの中で一人だけ女性であり、決然として気高く、体のシルエットがくっきりと浮かび上がり、右側から照らされて、頭を男たちの方に向けた女神は、最終的な勝利に向けて彼らを鼓舞しているのである。暗めの色で描かれた女神の右脇腹は、もくもくと立ち上る煙を背景にくっきりと浮かび上がっている。衣裳からはみ出た裸足の左足に体重をかけ、炎のように戦う姿が女神を変貌させている。この擬人像は現実の戦いに挑んでいるのだ。(ルーブル美術館HPより)

 この楽曲の発端となっているつぶやきが#BitchVogue編集長のブログで紹介されていました。そのつぶやきのことは自分の頭の片隅にもずっとあって、サプライズリリース後初めて聴いたとき、あ、あのつぶやきからの引用だ、とぴんと思い浮かびました。

 ”Living art, art, art, art”の重ね技が印象的です。楽曲が単調になることを避けるため、例えば今回であれば2フレーズ目のみ4回目のartを削って"Living art, art, art,     "としたり、4回の反復を2回のゆっくりに変換して"Living aaarrt, aaarrt"など、隙間をあえて作ることでリズムの調子を変えようとするアーティストも少なくありません(Dua Lipa「Physial」のアウトロではこの手法を採用しているように感じます)。そんな中、UKI EYEさんはこのパートで自身が(またはリスナーが、あるいはそれぞれが)生けるアートであることを宣言・鼓舞し続け、楽曲が打ち出すメッセージをより強めることに成功しています。ライブではUKI EYEさんの"Art! Art! Art! Art!"に続いてファンは\Art! Art! Art! Art!/とコール&レスポンスができそうだと感じました。ガナりパートはChristina Aguileraへのリスペクトも感じました。この楽曲はのちにおそらくベテランDivaを客演に迎え、リミックスver.がリリースされます。

 

頭をかすめたもの

Mona Lisa Smile (feat. Nicole Scherzinger) - will.i.am

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Track 03: セグウェイに乗って

□個人的に影響を感じた、もしくは関連性を感じた楽曲や作品

・チョコレート・ボーイ - UKI EYE (2020)

・ニホンノミカタ -ネバダカラキマシタ- - 矢島美容室 (2010)

 1番Bメロ”君の〜”を聴いたときにエモーショナルな気持ちになりました。しばらくしてから重なるような気持ちを抱いたのが矢島美容室「ニホンノミカタ -ネバダカラキマシタ-」ラストサビ前の”ネバダ〜/シャバダ〜/ダバダ〜”の3段駆け上がりです。こちらもエモーショナルです。

 

・GG STAND UP!! - 木梨憲武 (2019)

 「セグウェイに乗って」2番Aメロ、”切なくなるのは何故?”において、歌詞が開拓した広がりをトラックに託すという、楽曲というより大きな枠組みの中で引き継がれる展開に胸が打ち震えました。2番Aメロ後に乗ってくるほわほわとしたキーボード音がアウトロではUKI EYEの歌唱に引き継がれているところも楽曲の切なさを増幅させています。木梨憲武さん「GG STAND UP!!」においても共通する点があり、Cメロの”まだ答えは分からない”から間奏に入る展開に近いものを感じました。

 

・おなじ話 - ハンバートハンバート (2005)

 夫婦デュオハンバート・ハンバート初期の楽曲です。二人のやりとりが歌詞となっている楽曲で、サビ前にふいに挿入される会話の空白と他者の不在によって聴き手に引っかかりを覚えさせる作りになっています。

 

・坂道のメロディ - YUKI (2012)

 夏の楽しさがいっぱい詰まっているのに、終わらない夏休みがないこともどこかで悟っていて承知している感じ。

 

 楽曲のメロディー、リズム、聴く上でも意味が伝わりやすいようなどの観点から組まれているBメロ最後の語順入れ替え"風を感じたいよ 君の"が効果的に機能しています。2番のBメロを省略する構成、大好きです。

 

Track 04: H 

□個人的に影響を感じた、もしくは関連性を感じた楽曲や作品

・M - 浜崎あゆみ (2000)

 ・ノーサイド - 松任谷由実 (1984)

 今作の中で最も様々な要素がブレンドされている楽曲だと感じました。

 楽曲中ではタイトルのとおりHにまつわる言葉遊びが施されています。サビ前のフレーズが中でも特に目立っているのでもう一つの言葉遊びに気付くのには少し時間がかかりました。「H」の後半では、1曲目「心の雨」で上がった雨がまた心に降りかかります。心の雨に対してどのように対処すればいいかはわかっているけれど、ときにそこに溺れてしまうこともあることが示唆されています。 

できれば濡れたくはないけれど、生きてはいるから

どうぞ降って、雨よ、雨

UNIVERSAL MUSIC JAPAN Rain On Me歌詞・対訳ページより)

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 おわりに、先週末何気なくSpotifyを開いたら、お気に入りのアーティストによって作成されるプレイリスト「Your Release Rader」のカバーがUKI EYEさんで、Spotifyから届くメールマガジンのトップもUKI EYEさんの『Contrast』でした。それがとても嬉くて、元気をもらうと同時にいたく勇気付けられました。これからも応援していますよ。この度は『CONTRAST』のリリース本当におめでとうございます。