90年代と00年代のR&Bについて(2021年6月11日放送 bayfm『MUSIC GARAGE:ROOM 101』)

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bayfmで毎週金曜日27時から放送している渡辺志保さんがパーソナリティを務める音楽ラジオ番組『MUSIC GARAGE:ROOM 101』、2021年6月11日の放送ではゲストにDJ KOMORIさんをお迎えし、90年代と00年代のR&Bについて話をされていました。興味深かったので書き起こします。

 

渡辺「今日は実は私からKOMORIさんに質問があって。と言いますのも、以前この番組でGallantという男性シンガーのですね、Comeback.という、今年2021年の1月にリリースされた曲がありまして。私すっごくこの曲好きだなと思って、番組でもかけたんですけれども、なんだか2000年代のR&Bっぽい感じがするぞって思ったんですね、単純な感想として。でも自分の中でブレークダウンしていこうと思ったんですけど、一体何が2000年代っぽくて、どういうところがどういうふうになってると2000年代っぽいとか例えば90年代っぽいとか、どういうふうにR&Bサウンドって定義づけされてるんだろうって思って。で、これをどなたかプロの方に聞きたいなって思っていて」

 

KOMORI「そうだね、あれは俺も聴いてみたんだけど本当に2000年代のフレーバーがたしかにあるなって思ってて。で、そもそもR&Bって何?っていう話で、そこからちょっと簡単に話そうかなと思うんだけど。R&Bの定義っていうと、まあざっくり言うとリズムとハーモニーっていうその大きく二つがあると思ってて。で、リズムっていうのは、いわゆるブラックミュージックのリズム。よく”裏で取る”って言ったりするんだけど、1234じゃなくて、1、2、3、4ってこう裏で取る、ブルースとかジャズとかから来てるリズムの取り方っていうのがあって。で、これが90年代までは普通にブラックミュージックのメロディのリズムの取り方だったんだけど、どんどんヒップホップに近くなっていって、90年代から。ラップのリズムの取り方に近くなってきて。で、90年代だとMary J. Bligeとかが結構走りで」

渡辺「まさに。だってヒップホップ・ソウルってねいうふうに当時は言われてましたもんね」

KOMORI「だからすごくざっくり言うと、ラップのリズムでメロディをつけてR&Bを歌うっていうのが90年代から始まってきて。で、このGallantの曲もリズムの取り方がやっぱりラップっぽい、細かい」

渡辺「そうなんだ。たしかに細かさはある」

KOMORI「で、割とちょっとUsherとかを意識してるのかなあって感じですかね」

渡辺「思いました」

KOMORI「それが一つ00年代のR&Bの特徴で、あとハーモニーというところで、ハーモニーっていうのはR&Bではゴスペル、いわゆる教会の、映画とかでも観たことあると思うんですけど、クワイアって言って聖歌隊でみんなで歌って。で、それってコーラスが割とメインで、一人の人がメインで歌うんだけど、みんなでコーラスでサビを作るっていうか、メインで。で、R&Bも90年代まではコーラスがメインで、メインのシンガーの人がいるんだけど、サビはコーラスでみんなで歌う」

渡辺「あーたしかにたしかに」

KOMORI「で、そこのメロディの美しさじゃなくて、ハーモニーで聴かせる」

渡辺「あーそうかそうか。それって例えば90年代に女性グループ男性グループがたくさん出てきたみたいなことも関係あるんですかね」

KOMORI「そうそう、いわゆるコーラスグループっていうのが、SWVとかBoyz II MenとかJodeciとか、そういうのがやっぱり人気だったのもやっぱりコーラスワークで聴かせるからっていうのがあって」

渡辺「たしかにそうか。それが2000年代に入ってくるとちょっとずつ変化していくってことですか?」

KOMORI「そうそう。で、それを変えたのが、割とはっきりしてるのがNe-YoとStargateが変えたっていう。で、Ne-Yoはたぶん知ってる人も多いと思うんだけど、あとそのNe-Yoのだいたいのヒット曲をプロデュースしたStargateっていうスウェーデンのプロデューサーがいるんだけど、そのタッグがけっこうR&Bを変えたんじゃないかなって思っていて。で、それがどういうふうに変わったかっていうと、今までハーモニーメインだったR&Bをメロディをつけて、きれいなメロディで歌うっていうふうに切り替えたのがNe-YoとStargate

渡辺「そういうことか。その構造的な部分がやはりちょっとずつこう変化をしてきたっていうのがキーなんですかね。へー、おもしろい」

KOMORI「で、さっき言ったみたいにゴスペルの人が、コーラスの人がサビを歌うんじゃなくて、Ne-Yo本人が歌う」

渡辺「たしかに!Ne-Yoが歌ってる。そうですか、なるほどね」

KOMORI「それ以降はRihannaとか、そういうシンガーとかもサビをちゃんと自分で歌う。いわゆるポップスの仕組みになってきてて。それはやっぱりそのR&Bがちゃんと90年代、hip-hopも売れて、で、R&Bとヒップホップのマーケットがすごく大きくなってきたから、じゃあもっと広い世界に、それこそ日本人とかも親しめるような、アジアの人とかにも親しめるようなR&Bを作ろうって、たぶんNe-YoとかStargateは思って、それでこうメロディーがあるものにしたんだと思います」

渡辺「そうなんだ、大発見。そういうことだったんですね。ちなみにその今2000年代、そして2010年代に入って、まああとは2020年代か、に入って、今KOMORIさんが思うR&Bサウンドの進化のしかたっていうのはどういう方向に行ってると思いますか?」

KOMORI「今はやっぱり引き続きコーラス、ハーモニーよりかはメロディで聴かせるっていうのは変わってなくて。で、リズムの部分に関しては本当にどんどん複雑になってる、っていう感じかな」

渡辺「そうか、そういったサウンドの変遷ってご自身がDJされるときにも関わってきますか?」

KOMORI「うーん、やっぱりそのお客さんの年齢層によって、はっきり好みが違うから。90年代R&Bのよさって、和音なんですよ」

渡辺「へー、どういうことですか?」

KOMORI「和音で、それが分かる人と分かんない人っていうのがいて。ちょっと偉そうな言い方になっちゃうんだけど。分かる人たちっていうのは、やっぱりブラックミュージックが好きで、和音がぱっと鳴ったときに、あ、いいって思えるか、それともメロディにちゃんとなってないと分かんないっていう、なんかこう感覚の人がいて。で、そこのけっこう違いがあるかなっていうのが」

渡辺「なるほどね、じゃあそれに乗れるか乗れないかっていう違いがリスナーの方にも出てくるっていうことですよね」

KOMORI「そうなんですよ。割となんだろう、コード進行ってはっきりあるんだけど、コードがなんか普通のコードの音って、(実際に弾く)これがドミソ、Cコードっていう一番オーソドックスの音で。で、ブラックミュージックとかだと、テンションコードって言ってこういう複雑な(実際に弾く)こういう音になるんですよ。これをぱっと聴いて、たぶん志保ちゃんとかは、あ、いいコードだなって思うと思うんですよ」

渡辺「なんかグルーヴ感じるみたいな、たしかに」

KOMORI「でもたぶん普段J-POPとか聴いてる人って、なんか音が濁ってるって思うと思うんですよ。で、これを90年代まではこういう(テンションコードを実際に弾く)進行だったりしたんだけど、(テンションコードにメロディを乗せて弾く)それをちゃんとメロディにしてあげると音がきれいだなって、日本のリスナーとかJ-POPのリスナーも分かるようになったから、それがなんだろう違いかな」

渡辺「すごい、考えたこともなかったです、和音とか。そうなんだ」

KOMORI「そうね、言われると、あ、そうなんだなって」

渡辺「たしかに。ありがとうございます。ここで、今日はKOMORIさんの2000年代R&Bを象徴する一曲を選んでいただいたので、ちょっと簡単にどこかどう00年代っぽいのかっていうことも添えていただきながら曲紹介をお願いします」

KOMORI「はい、今回選んだのは、Ne-YoのSo Sickで、本当にこれがまさに2000年代R&Bを作っていくっていう感じの曲なんだけれども。これはイントロのタンタンタンタ〜ンっていうフレーズをサビでそのまま歌ってるいうっていう。まあユニゾンっていうその同じメロディーを歌うっていう、まあ割とJ-POPだと全然あるんだけど、R&Bでは逆にポップすぎて禁じ手だったっていうくらいシンプルなのと、でも意外とverseって言って平歌、サビ以外の歌の部分のリズムがちょっと複雑だったりとかして。そこらへんはやっぱヒップホップ以降の、ラップ以降のリズムの取り方をしていて。シンコペーションって言って、ちょっとこうリズムが前に来てる歌い方とかをしていて、リズムが難しくて。でもサビになるとめっちゃリズムが簡単になって、誰でも歌えるっていう感じがある。だから曲知ってる人とかは、聴きながら一緒に口ずさんでもらうとたぶん分かると思うんだけど、あれ?verseってあれ?意外と難しいんだなって思うけど、口ずさんでて、サビになると超簡単みたいになるから、なんかそういうふうに聴いてもらえると」

渡辺「今まで単純に泣ける名曲だな〜としか思ってなかったし、ブラックミュージック好きな2000年代R&Bとか聴いてた方だったら絶対に聴いたことがある一曲だと思うけど、改めてそうやって構造的な部分を説明していただくと全然印象が変わります」

KOMORI「そうなんですよ。で、これ絶対Ne-Yoは確信犯だと思います」

渡辺「あー絶対そうだよね、ありがとうございます。ではKOMORIさんから改めて曲紹介をお願いできますでしょうか」

KOMORI「はい、Ne-YoでSo Sickです」

 

bayfmMUSIC GARAGE:ROOM 101』は毎週金曜27時〜28時に放送しています。ぜひラジオやradikoで番組を視聴してみてください。

MUSIC GARAGE:ROOM 101 | bayfm 78.0MHz ベイエフエム