今はそれでいい

2022年12月2日(金)

仕事終わりに買い物で家の最寄駅のスーパーへ行く。お店に入ってすぐの青果・野菜コーナーのところで、お客さんと店員さんが姿勢をかがめて棚の下の何かを探しておられる様子。今日は別に急ぎの用はなかったので店員さんに声をかける。どうやらお客さんがワイヤレスイヤフォンを落としたらしい。私が話しかけて間もなくして店員さんは見切りをつけ、お客さんに一声かけて売り場に戻られる。お客さんの方に声をかけて、一緒にワイヤレスイヤフォンを探す。落としたのはAirPodsらしい。自分のiPhoneのライトを点けて、青果・野菜・花・シーズンもののコーナーの棚を探す。探索している間、AirPodsであれば「探す」アプリを使って落ちたほうのAirPodsから音声を発信することができることを伝えて実践してもらったが、接続がなかなかうまくいかず。自分も「探す」アプリを利用したことがあるのでなかなかつながらないもどかしさが痛いほどよくわかった。ようやく発信された音声も店内音楽にかき消されてしまって全く聞こえなかった。別のお客さんも声をかけてくださって一緒に手伝ってもらったりもした。10分くらい探しても見つからず、落とされた方ももう諦めますと話されたので、力になれずすみませんと伝えて買い物に戻る。実はいろんな棚の下を覗きこんだとき、100円玉を2枚見つけた。でも失くしたAirPods片耳分と比べて私の拾得した200円は何の慰めにはならないだろうと、別れ際にそのことは言えなかった。そのお客さんと別れたあと近くで在庫の整理をされておられた店員さんに200円を渡す。

 

2022年12月5日(月)

この日は一日中雨。仕事終わりに友達と晩ごはんを食べたあと電車に乗る。帰り道の電車で携帯の充電が残り2%なのに気づく。20%を切ったあたりで気をつけようと思っていたのに、ラジオや音楽を聴き続けてしまった。モバイルSuicaに電車の定期券を登録しているので、充電を使い切ってしまうとエクスプレスカードとして使えなくなり改札を通れない。それは困ると思ってその後はラジオや音楽は聴かずにリュックに入れていたパク・サンヨンさんの『大都会の愛し方』を読んで過ごす。電車での帰り道が普段よりも長く感じる。 電車を降りると駅のホームでコヒさんとばったり出くわす。どうやら自分の隣の車両に乗っていたらしい。遅い時間だったので遅くまでお疲れ様です、よかったら一緒に帰りましょう声をかけて、シェアハウスまで一緒に帰る。改札を抜けて駅の階段を降りると、雨がまだ降り続いている。お互いに折り畳み傘を差す。傘を差すタイミングでコヒさんが「雨に濡れると大変、僕はサイボーグだから」とこぼす。即座には意図を掴みかねたので「どういうことですか?」と尋ねると、「ほら僕、補聴器つけてるから」とコヒさんが理由を加える。コヒさんが補聴器を付けておられることは知っていたが、そのことをコヒさんから話されたのはこのときが初めてだったと思う。深刻そうな雰囲気ではなくおどけた様子で話していたので、自身のことを冗談めかして話したのだと思う。私は「そっか、たしかにそれは大変ですね」と返す。どのような経緯があってコヒさんが補聴器を付けているのは私は知らないし、これまでに尋ねたこともない。私が尋ねたいタイミングとコヒさんが話したいタイミングはたぶんちがう。何よりパーソナルな事柄だと感じる。コヒさんが話したいタイミングが私の聞くべきタイミングだと思う。事実だけ知っている。今はそれでいいように思う。