リレー形式の台詞

 ドラマやアニメで、リレー形式で台詞を喋るシーンがあまり得意じゃない。例えば、敵に追い込まれたプリキュア戦士たちが発する、
プリキュアA「私たちは」
プリキュアB「あんたなんかに」
プリキュアA・B「絶対に負けない」
みたいなシーンがあるとする。
 演出的に必要な場合もあるということは理解する。ただ、私たちはそこまでお互いのことを理解しあえているのだろうかという問いが目前に立ちはだかる。たとえフィクションであったとしても、プリキュアAは、「私たち」という主語をともに戦うプリキュアBに託すのか、と一歩引いてしまう自分がいる。(その引いている自分の中には、プリキュアA・Bの強固な信頼関係を羨んでいる自分がいることを忘れてはいけない)
 衆院選の公示のタイミングで、芸能人が投票を呼びかける「VOICE PROJECT 投票はあなたの声」の動画がYouTubeに公開された。公開されたその日に動画を見た。嬉しかった。SNSをフォローしている秋元才加さん、安藤玉恵さん、二階堂ふみさん、石橋静河さん、前野朋哉さんが参加されておられて、出演者たちならびに今回の選挙への興味をより一層強いものにした。
 率直に選挙について話す出演者たちの言葉に耳を傾けるなかで、先ほどのリレー形式の言葉がいくつかあることに気づく。
仲野「自分たちの子供とか」
菅田「孫とか」
橋本「はたまたその100年後とかになるかもしれないけど」
 少し戸惑う。この動画は、出演者の政治や選挙・投票に関するエピソードだったり、どのような思いで投票するのかという話を収録・編集して関連する部分をつなぎあわせることで構成されたものなのだろうか。はたまた制作にあたってはひとつの台本があり、それを出演者たちはあくまで分担して喋っているのだろうか。一体どこまで出演者たちの考えや主体性がこの映像に反映されているのか判然としなくなる。
 動画の公開から数日間もやもやとしていたら、10月23日の東京新聞の記事でこの動画制作に携わられた方達の紹介がされていた。その中には、”動画では、出演者それぞれの言葉を大切にした。14人が話す内容は当初、台本が用意されていたが、完成した動画の9割以上は、それぞれが自由に、自分の言葉で語った部分が使用された。”とあった。つまり裏を返せば、映像の一部は用意されていた台本の台詞が使用されていることが分かった。あのリレー形式の言葉は、ひょっとしたら偶然のものかもしれないし、意図されたものかもしれない。どちらの可能性もあることが分かりほっとした。取組を歓迎し、投票を呼びかけるメッセージにも賛同しているのに、その中の仔細な部分に引っかかってしまい、分かり合えないことに固執し、そのよすがになるようなものを見つけて安心してしまう自分が嫌だなと思った。