『サンデーモーニング』での張本氏の女性蔑視発言と番組の謝罪対応について(2021年8月20日放送 TBSラジオ『アシタノカレッジ』)

f:id:muda-muda:20210821201058j:plain

2021年8月20日放送の武田砂鉄さんがパーソナリティを務めるTBSラジオ『アシタノカレッジ』、番組終了後にYouTubeで配信されるアフタートークが誠実なお話だと感じたので書き起こします。

『アシタノカレッジ』はTBSラジオでは珍しくradikoYouTubeで同時生配信をしている番組です。金曜日の『アシタノカレッジ』では、23時台にTBSラジオ澤田記者とその一週間のニュースを振り返るコーナーがあり、ラジオでの放送が終了した24時すぎごろからYouTubeでのみ、アフタートークが配信されています。アフタートークでは番組で取り上げたニュースをさらに深掘りしたり、本放送では扱えなかったニュースを取り上げることがあります。私は普段本放送をradikoで聴き、アフタートークのみYouTubeで聴くといった聴き方をしています。

8月20日のアフタートークでは、8月8日放送TBSテレビ『サンデーモーニング』での張本氏の女性蔑視発言とその後の番組としての謝罪対応、また番組制作や組織体制について、かつて『サンデーモーニング』のスタッフとして1年半担当し、大きな枠組みで言えば同じくTBSに勤めておられるTBSラジオ澤田記者から話がされました。

以下、書き起こしです。

 

武田砂鉄「アフタートークはどういったテーマでいきましょうかね」

澤田大樹「『サンデーモーニング』の話を、金曜日ですがしようかなと思ってまして。あの例の、女性蔑視発言の謝罪」

武田「たぶん皆さんご存知だとは思いますが」

澤田「一応経緯を触れておきましょう」

武田「ここは丁寧に敬意を説明しておいたほうがいいでしょう」

澤田「『サンデーモーニング』という日曜朝8時からTBSテレビで放送してる番組があるんですけども、その中の今月8日の放送です。その中のスポーツコーナーっていうのがあるんですけれども、その中で東京オリンピックの女子フェザー級ボクシングですね、金メダルを獲得した入江聖奈選手に対して、”嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってね、こんな競技好きな人がいるんだ”と張本勲さんがコメントしたと。これに対して、日本ボクシング連盟がTBSテレビ宛てに遺憾の意を表す抗議文を出したと。これに対して12日に番組側が、”自分も金メダルを獲れるのではと思ってボクシングをやる女性が増えてほしいということを本当は言いたかったのです。言葉足らずで反省しています”などとする張本氏のコメントをつけた謝罪文をボクシング連盟に送ったと」

武田「”自分も金メダルを獲れるのではと思ってボクシングをやる女性が増えてほしい”ということを言いたかったと」

澤田「はい」

武田「なかなか無理のあるコメントだなあと感じますがね」

澤田「元の発言は”嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってね、こんな競技好きな人がいるんだ”に対する答えと。言いたかったのはそうじゃないと。その上で先週の日曜日の放送で番組司会者の関口宏さんが”8月4日の放送に関し、謝罪がある”と伝えると、スポーツコーナーの進行を務めているフリーアナウンサー唐橋ユミさんという女性の方が、次のようにコメントしたと。”張本勲さんのコメントの中に女性およびボクシング競技を蔑視したと受け取られかねない部分があり、日本ボクシング連盟より抗議文が寄せられました。不快に思われた関係者のみなさま、そして視聴者のみなさま、大変申し訳ございませんでした”と。このコメントを受けて、関口さんが”私も会話の途中でも間違いを正せばよかったということを反省させられました”と語って、張本さんに振って、”どのように受け止められていますか”とコメントを求めると、張本さんは、”今回のは言い方を間違えて反省しています。以後気をつけます”と述べるにとどめたと」

武田「それだけ」

澤田「はい。最後に関口さんが”いろいろな方にご迷惑をかけた”と。”まずボクシング連盟、それから視聴者の方々にお詫びをしなければなりません。本当にこれからは気をつけて参ります”と結びましたということですね。これが一連の流れということです。この『アシタノカレッジ』金曜日のニュース・エトセトラの中でも、この手のジェンダーに関することってずっとやってきたんですね」

武田「そうですね、割とこの10ヶ月、11ヶ月ぐらい定期的にそういう発言、今年2月の森喜朗氏の女性蔑視発言が一番大きかったと思いますけれども、こういった話題は続けてきましたね」

澤田「テレ朝の報ステ、『報道ステーション』のWEB CMについても取り上げました。他局も触れて、政治家も触れて、自社のことについてしゃべらないのは公平ではないと私も思いますので。ただ、ネットで発言この間してきませんでした、これについて。twitterはやってるんですけど、その短い文ではこれ伝えきれないので、ちゃんと番組でしっかりとしゃべりたいなと思って、今話しますということですね。なんでこの番組について話すのかというともう一つ要素があって、私自身この『サンデーモーニング』のスタッフだったんです。以前テレビに出向してたときに1年半関わったということもあって、しっかりコメントしたいなと思います」

武田「よろしくお願いします」

澤田「今回の件で問題点は大きく3つあると私は考えます。一つ、張本さんの元のコメントが旧来のジェンダー観に基づいた差別発言だということがまず一つですね。女性をおしとやかでおとなしいものであるというような旧来のジェンダー意識に基づいて、発言された発言だなと思いますね。スポーツをする女性自体を貶めるもので、明らかな女性蔑視であったとは思います。ただ、ご本人は悪いと思ってないだろうなというふうにも思います」

武田「この”嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってこんな競技好きな人がいるんだ”という言い方には敬意がないですし、その言われ方、言い方というのは、常日頃からこういう考え方で言い慣れてる言い方なんだろうなというのが想起されますよね」

澤田「問題点の二点目、謝罪文のコメント内容です。謝罪文では、”張本氏の発言にはご指摘のように女性およびボクシング競技を蔑視したと受け取られかねない部分があった”としています。これだと受け取る側が悪いという表現の仕方ですよね。受け取られかねない、受け取っちゃう人がいる、ってことですから。そういう意味じゃないんけど、受け取っちゃうでしょ、そんな人いるでしょ、だから、っていうことですよね。だからつまりこれ書いた人も番組サイドも謝罪しなきゃいけない内容だと思ってないんじゃないかなと」

武田「それこそ、こういうアフタートークとか本編でも扱いますけれども、政治家の言い分として、誤解を招いたとしたらお詫び申し上げますっていうことに対して、おいおいどういうことだよと、その本人たちは反省してないでこっちの受け取る側がそう思っちゃったんだったらすいませんねっていう言葉っていうのがよく使われて。それに対してそういう言葉はどうなんだっていうことをやってきましたけど、まあそれと完全に作りが一致してしまったんですよね」

澤田「はい。批判してきたメディアがやるっていうのは最悪の謝罪だなというふうに思います。放送に携わる者っていうのは、言葉のプロじゃなくちゃいけないというふうに思って私は仕事をしているので、それにおいては最悪の表現を使っているなというふうには思います。問題点の三つ目は謝罪の仕方です。なんでMCである関口さんではなくて、女性の唐橋ユミさんが謝罪文を読むのかということですね。本来であれば、番組メインの関口さん、もしくはプロデューサーとかあるいは張本さんが謝罪文を本来ならば読むべきだと思います。関口さんも言及してるんですけども、その場にいたので、止めればよかったというふうにおっしゃっていますよね。だったらやっぱり関口さん読まなくてはいけないかなというふうに感じました。なんで唐橋さんに読ませてるのかというところですよね。このお二人の関係性なんですけども、所属事務所の会長と所属タレントっていう関係でもあるんですね、ちゃんと見ると。そうするとやっぱり、引いてみると、パワー関係が存在しているようにも見えるわけですよ」

武田「まあ、圧倒的な力関係がありますよね」

澤田「はい。そこは対等な関係とは見えないわけですよね。地位が違うわけだから。経緯は知らないんですけど、どうしてもやっぱり読ませてるように見えてしまう、その力関係が見えてしまった瞬間に。それは番組の姿勢としてどうなのかっていうのはちょっと感じます」

武田「これはもう本当になぜ唐橋さんに読ませたんだっていう指摘は番組放送された後からも出てましたけども、こういった構図っていうのは社会のいろんなところにあるわけですよね。こういうとき代わりに言わせておけば何か話がそのままスムーズに流れるんじゃないかっていうことってのはよくありますよね」

澤田「唐橋さんはある種持ち上げるような意見っていうのも出てましたよね、終わった後に」

武田「よく言ったというような?」

澤田「はい」

武田「うーん、まだそれも違うような気がするわなあ」

澤田「ちなみに、これに関連してその謝罪の現場のスタジオの中にいたフォトジャーナリストの安田菜津紀さんがツイートしていました。ご本人に紹介する許可を得たので紹介します。”番組内で発言する機会がありませんでしたが、張本さんの発言を蔑視と受け取られかねないものと表現されたこと、それを女性のキャスターの方が伝えるかたちをとったことは、再発防止にはつながりえないものだと私は考えます。”というツイートをされているということですね。この謝罪の仕方がおかしいっていうふうに安田さんも言いたかったけれども、番組内ではコメントする機会がありませんでしたと書かれていますね。やっぱりこれニュースにコメントする番組なのに、コメンテーターに関してこのことについて意見を求めないっていうことはあったんだなっていうことは伝わってきますよね。番組自体がこの異議をなかなか挟みにくいのかなっていうことがこのツイート、そして状況から伝わってくるかなと」

武田「やっぱりその最初に唐橋さんが謝らされるというのがもう完全にその場の権力構造に基づいて選ばれているという状況を見たときに、そしてそこにいるコメンテーターの人にそれぞれコメントを求める機会が用意されないということであれば、もうそのかたちで押し切ろうというふうにしてたと見られてもしょうがないですよね」

澤田「この流れから見てきて改めて考えていきたいってことなんですけども。この『サンデーモーニング』に関して言うと、政府のジェンダー問題、さっきおっしゃったような政治家のその手の失言とかに関しては、かなり厳しく指摘する側の番組だったと思うんですよね。出てる人の中でも例えば荻上チキさん、今週の『session』の月曜日の冒頭でも触れられてたりします。それから安田さんもtwitterというかたちで異議を申し立てられてっていう。それから浜田敬子さんとか、谷口真由美さん、ラグビー協会の理事、とかですね、みたいなちゃんと指摘する方をコメンテーターとして起用してきてた番組なんですね。だから意識が高いと世間からは思われていた番組だと思うんです。それでもやっぱり番組のジェンダー意識っていうのが変わっていなかったなっていうことがまあ今回の件、特に私が一番問題としてるのは、謝罪の仕方だと思うんですけれど、その中で証明しちゃったと。つまり、これニュースバリューがあるからとか、話題だからっていうことでそれらの問題を今まで取り上げてきたに過ぎないんじゃないかと、思われても仕方ないかなと。つまり、やっぱメディアの作ってきた信頼っていうことを自分から毀損してしまったと思われても仕方がないかなというふうに思います。やっぱりこれ環境の問題っていうのは大きいと思います。取り巻く環境の問題ってすごく大きいっていうことを報ステのときにも指摘したと思うんですけども、あのときもほぼ男性が関わっていたということが後から伝わってきてますよね。『サンデーモーニング』に関しても、決定権を持つようなプロデューサーと名のつく人たちはみな男性なんですね。メイン司会者も男性、元の問題をした人も男性、まあつまり全員男性が決めてるんじゃないかなあと、思うんですね。この謝罪で果たしていいのかとか、再発防止するにはどうしていかなきゃいけないのかと、そういったことっていうのをプロセスを明らかにした上で本来なら謝罪すべきだったと思うんです。でも、それがやっぱりできてないっていう時点で、異なったメッセージが、それこそ政府の話じゃないですけれど、受け手は送られてしまう、というふうに思うんですね。これやっぱり『サンデーモーニング』に限らず日本の社会のどこでもあることで、それが『サンデーモーニング』というかたちで今回出たということだと思っていて。それはもちろん構造の問題なんで、TBSラジオもこんな偉そうに言ってますけど、一緒です。この番組のプロデューサーは女性ですけれども、部長以上の幹部職員、取締役も含めてみんな男性なんですよ、TBSラジオって」

武田「それは本当に、足を踏み入れてみてびっくりしましたね。たぶん対外的にというか、リスナーとして聴いてると、パーソナリティも女性が多いし、そういう空間なのかな、環境なのかなと思いましたが」

澤田「武田さんが出られてる番組は全部、レギュラーだったのは女性がプロデューサーだったと思いますけども」

武田「そうですね」

澤田「それはけっこう実は珍しくて」

武田「みたいですね」

澤田「はい。男性ばっかりなんですね。だからこれも他山の石じゃなくて、なんなら自山の石なんですけど。同じような問題が起こらないようにやっぱり報じる側が差別的じゃないかなとか、もしちょっとおかしいんじゃないかなってことは意識し続けるってことが大事だし、なんかあったときにちゃんとすぐ指摘できる、出てる人だったり、もしくはリスナーの方だったり。そういう人たちが指摘できるような体制を作っていくっていうことが本当は大事だなって思います。失敗することってやっぱりあって、そのときもちゃんとこういう問題がありましたと、それに対してこういうプロセスで変えていきます、だからすみませんでした、というかたちにしていかないとやっぱり信頼って得られないと思うんですね。そこが失われていくとやっぱりメディアって本当に終わるので」

武田「もう一瞬で崩れますからね」

澤田「はい。特にニュースを扱うメディアに関しては、なおさらそうだと思うので、それはもう私もミスすることってきっとあって。そういうときは指摘していただきたいなって思うし、そこに関してちゃんと整理してプロセスも明らかにして謝るようにしていきたいなというふうに今回の件を見て感じましたと」

武田「あの、とりわけ今回の張本さんの発言っていうのは、2月の森喜朗さんと非常に仕組みが似てると思うんですね。つまり、かなり歳を重ねた男性、そしてその世界ではもうレジェントとされているようなプレーヤーと、スポーツ界ですごく力を持っている人の発言に対して、まあどこかもう諦めムードがあるわけですよね。同じようなことをずっと言うし、まあ、おじいちゃんだからさ、みたいな。それが肯定的に機能させようとするような動きっていうのがあって。まあ森喜朗さんの発言は、そうは言ってもこのね、オリンピックのトップに立ってやるような人材ではないですよということでかなり世論も盛り上がって、その立場がなくなったわけですけれども。それと今回は全く同じというか、もっとその、うーん、軽い感じでまあでもずっと言ってきたことだししょうがないっすよねっていうムードを作ろうとしたと思うんですよね。それがなんか、ここまでいろんなことを積み重ねてきて、同じことをやってしまうのかと言うよりも、もっとなんていうか、これまでの手癖のある言い訳の方法でやってしまったのかっていうことが浮き彫りになっちゃったっていうのが非常に残念ですね。あと僕がもう一つ添えたいのが、この日本ボクシング連盟がですね、この内田会長というのが声明でですね、この張本さんに対して、もう少し理解を持って女性ボクサーを見てもらいたいと。この入江選手、並木選手も礼儀正しく、女性らしい人格を持った選手です、と。誰に対しても模範となる女性でありますというような言い方をしたんですね。これもまた違うぞと。あの、どういう人間だからこう言っちゃいけないっていうことではないわけですよね。このスポーツのジェンダー意識のなさ、スポーツとりわけ団体、何々連盟みたいなところの意識のなさっていうのは、これまでずっと指摘されてきましたね。あのオリンピックの数ヶ月前にも空手の指導者のハラスメントがありましたし、柔道の世界でもありましたし、そういうのをこう重ね合わせて思い出してみるとやっぱりこのスポーツの指導する側、管理する側のこのジェンダー意識っていうのもずっと問われたままだし」

澤田「森さんの会見でも言っていて、これは私じゃないですよと。聞いた話なんですよって会見でおっしゃってますよね」

武田「ああ、そうでしたね」

澤田「つまり、しかもその一つじゃないっていう趣旨のことを森さんはおっしゃってる。そういう状況がスポーツ業界に蔓延しているよということを森さんはあの段階で言っていた。それが本当かどうかは分からないけれど、少なくとも森さんはああおっしゃっていて、それとリンクするようなことがぽこぽこ起きているということは分かりますよね」

武田「だからほんとあのオリンピックでね、多様性と調和だと、United by Emotionという、ちょっとなんだその英語っていう中で、我々は二週間半オリンピックを見て、これからパラリンピックに向かうわけですけれども、結局何も変わっとらんぞというのを、とりわけ今回はメディアの側もですね、それをこう強化すると、明らかにしてしまったというということなんで、このあとの日曜日、『サンデーモーニング』次回で言及があるのかないのかっていうのは分かりませんけれども、やはり今澤田さんがおっしゃったような問題点、これはもう多くの人が指摘してることですから、もうやはり一つこうなにか言葉を発してっていうことでないと、今まで通りに戻りましたよという感じで出てくるというのは少し違うのではないかなというふうに思いますけれどもね。どうなることやらということで」

澤田「社員が言っちゃいました」

武田「社員が言っちゃいました。澤田大樹、力強い宣言でございました」

澤田「おかしいんじゃないですかっていう話ですね」

武田「こういったケースというのは、お前らメディアどうなんだよっていうのがこういう記者であったり、僕は原稿書く人間であったり、こうやってラジオでしゃべる人間にも、当然カメラとして向けられることでございますので、そこはもちろん日々注意しながら、そして踏み外したときには、なるべく素早くそして誠実に、ということでございますよね」

 

(書き起こし終わり)

 

TBSラジオ『アシタノカレッジ』は平日22時から放送されています。radikoYouTubeから番組を視聴することができますので、ぜひ聴いてみてください。

www.tbsradio.jp