自分の疑問を大切に

 5/13、6時起床。少し前に目覚ましをデフォルトのアラーム音からLoony「Some Kinda Love」に変えた。そしたらいくぶんか寝覚めがいい(気がする)。ドラムが拍の後ろにちょっともたれている感じが心地いい。ここ最近黄砂の影響で寝覚めのコンディションが優れないのが惜しい。

 出かける支度をしながらTVerで昨日の『あちこちオードリー』を観る。今週のゲストは小島瑠璃子さんとジャングルポケット小島瑠璃子さんがジャングルポケットファンの過程について、斎藤さんが初速、太田さんが加速、おたけさんが追い込みだと言い表していて、鋭い指摘だと感じる。ずっと太田さんのコントに対する姿勢であったり、振る舞いを素敵だなと思っているのだけど、最近のおたけさんの自由な振る舞いと前髪を下されたスタイリングにグッとくるときがある。

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 この日は、けっこう遅くまで残業。職場で最後の一人になる。間食として持ってきていた無印のバナナバウムは昨日半額で買ったもの。久しぶりに食べたら美味しくって午前中に食べ終えてしまう。残業中は引き出しにあるクロレッツのボトルガムをひたすら噛んだ。

 運動を普段以上にするよう心がけている。その一方で自炊も楽しくなってしまって、気がつけば料理を作りすぎてしまう。それで作った料理を腐る前に食べねばというもったいない精神で食べ過ぎる。スーパーで買う量を調節しないといけないと反省する。

 Bleachersの『Gone Now』に収録されている「Everybody Lost Somebody」がリリースされて今日で3年が経つ(時差があるため正確には5月12日)らしい。9.11やJack Antonoffが18歳のときに、妹をガンで亡くした経験がそれぞれきっかけとなっている楽曲だと思う。喪失体験の過程における、自身の当時の気持ちや感情を保っていたい気持ちと、その情感から一定の距離を取りたい気持ちとの混交が表現されているように感じる。聴くたび胸が締め付けられる。大事な一曲。

 

 5/14、イ・サングン『EXIT』を観る。ある出来事に対して、どこに焦点をあてるかで見え方が異なることをぼんやり考える。報復劇としての映画にするか、パニックアクションとしての映画とするか。この映画では後者にぎゅっとテーマを絞って、事件の全貌を明らかにするというよりもむしろ、有毒ガスの蔓延という緊急事態に巻き込まれてしまった一個人の体験を中心に据えて描いている。

 劇中、ウィジュが勤め先である宴会場の評価を自作自演で投稿していることをヨンナムに告げる会話が挟まれる。その少し後に、ヨンナムが強化窓ガラスを割るために、廊下に飾られた盾を用いるシーンがあって、その盾は宴会場がサービスの質や顧客満足度のようなものを評価され授与されたと思われる、いわゆる信用や満足度の比喩だと思ったのだけど、前の会話によってそれが虚像であるかもしれないということが炙り出されていて、それを投げつける演出にぐっときた。

 ほかにも、”雲の庭園”という宴会場の一会場で、有毒ガスから逃れるために屋上を目指す展開とか、上へ避難する際に山岳によって培われたスキルとはしごの利便性との差異を示す部分など、意図して折り重ねるところが散りばめられていて面白かった。

 ラジオ体操をして走る。この日は16km走る。河川敷を走っていると、除草作業が行われていた。

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 この日は天気がよかったのでアスファルトにたくさんのミミズが干からびていた。そこにハトやカラスが近寄っているところを目にする。自分は干物であれば時と場合によってハードなあたりめが食べたいときと、ソフトドライなあたりめが食べたいときがあるのだけど、ふと鳥の世界にもドライミミズ派とかソフトドライミミズ派があるのかなとかくだらないことを考える。ランニングからの帰り道、スーパーに寄ってバナナとスポーツドリングを買う。夕方、網戸にしていたらどこか近所の家からピアノを練習している音がする。夕方っぽくていいなと思う。

 晩ごはんの準備をしながら、NHK第一高橋源一郎飛ぶ教室』を聴く。この番組が本当に好きだ。今週は2時間スペシャル。オープニングトーク書き起こし。

 高橋「こんばんは。作家の高橋源一郎です。今日は2時間ずっと本の話をします。僕もとても楽しみです。本は生活必需品だ、という読者の声に押されるように、大手の書店が久しぶりに営業を始めました。そうですね、読むだけなら電子書籍でもいいけれど、紙の本にはそれ以上の何かがあります。」 

 高橋「中学生の頃、父の実家に下宿していた工学部の大学院生で、よく僕も勉強を教えてもらっていた、Tさんというという人に岩波文庫をもらったことがあります。トーマス・マンの『トニオ・クレエゲル』でした。難しい専門書ばかり読んで勉強している堅物のTさんが小説なんか読むのかなあ、と驚いたのを覚えています。「源一郎くんがこういうの読むのかわからないけど」とTさんは言いました。僕はお礼を言ったけれど、実は(トーマス・)マンには興味がなくて、本棚にしまったままでした。」

 高橋「そのTさんは、田舎育ちの秀才で、下宿でもずっと勉強ばかりして、大学では実験ばかりやっていて、遊びを知りませんでした。世話をしていた僕の叔母がよく話していました。「あの人、女の子と付き合ったことはもちろんないし、話すだけで真っ赤になるんやで」と。一度だけ珍しく合コンのようなものに誘われたTさんが戻ってきたので、早速叔母が「どんなを話したん?」と聞くと、Tさんは恥ずかしそうに「何を話していいのか分からないので、基礎工学の話をしました」と答えたそうです。残念ながらTさんに声がかかることは2度とありませんでした。でもTさんは本当に笑顔を絶やさぬ、悪意というものがまるで感じない人でした。」

 高橋「本を貰った翌年の夏、田舎に帰省していたTさんが脳溢血で突然亡くなりました。まだ25歳でした。部屋の荷物を取りに来たのはお父さんで、「お世話になりました」と頭を下げて帰られました。空っぽになったTさんの部屋で、僕は初めて『トニオ・クレエゲル』を読みました。主人公のトニオは、自分にはないものを持つ者たちに強い憧れを持つ少年でした。そして恋する少女が楽しげに踊るのを部屋の隅でじっと見つめることしかできなかったのです。僕にとって『トニオ・クレエゲル』はそんな本。微笑みの記憶だけを残して一瞬の風のように消えていった、今の僕よりもはるかに若い一人の若者の姿とともにあります。みなさんにそんな本の記憶はありますか。」

(2020年5月8日放送 NHK第一高橋源一郎飛ぶ教室』より)

  今回の課題図書は夏目漱石『こころ』と太宰治人間失格』。読者から寄せられる感想に対して、リスナーの想像力を肯定し、さらに自由や選択肢を提示するかたちで応える源一郎さんが好きだ。

 高橋「あのね、自分が好きな場面とかを大事にした方がいいと思います。あの、解説とかを読むと「ここがすごいよ」とか「こう読め」って書いてありますけど、そんなのは無視して、自分が気になったところ、それがね、たぶんその人にとってもとても大切なシーンなんだと思うので。」

 高橋「解説とかいろんなことをいう人はいますが、自分の疑問を大切にしましょう。」

(2020年5月8日放送 NHK第一高橋源一郎飛ぶ教室』より)

 後半パートのゲストは能町みね子さん。番組終盤、共感という言葉についておっしゃっていたことについて書き起こし。

 能町「いや、えっと、一言ちょっと無理やりねじ込みますけど。あの、私『共感した』っていう言葉が最近嫌いになってまして。あの、人間失格に共感したとはなるべく言わないようにしようと思って気をつけて言ったんですけど。安易に共感っていうのはよくないって最近思いますね。みんな個人個人の感想があるんだから、簡単に共感っていうのは今やめようって思ってるのが私の、あの、課題ですね。簡単に共感に収めないでほしいなっていうふうにちょっと今思ってますね。」

(2020年5月8日放送 NHK第一高橋源一郎飛ぶ教室』より)

 番組中にかかる楽曲にも源一郎さんのエピソードがある。今回の番組中ではYen Town Bandの「Swallowtail Butterfly」とUAさんの「ミルクティー」が流れた。この楽曲について次のように話していた。

 高橋「えっとですね、実は、あの最初(1曲目に)Swallowtail Butterfly(Yen Town Bandの楽曲)をやったんですけど、実はあれは『こころ』を映画化するとしたら僕はテーマ曲をあれにしてもらいたいなという。ということで、僕が『人間失格』を実写映画にするとしたら、まあ(すでに映画に)なってるんですけど、僕だったらこの曲を主題歌に使ってもらいたい。これです。UAでミルクティー。」

(2020年5月8日放送 NHK第一高橋源一郎飛ぶ教室』より)

 自分も小説を読むときにこれまで聴いてきたある楽曲が思い浮かぶことがあるが、瞬間的に思い浮かんで瞬間的に忘れてしまう。でもその感覚は自分にしかできないことだなあと思って、これからはそういう経験を逃さないようにしようと思う。

 日付が変わってリリースされたCharli XCX『how i'm feeling now』を寝床で聴く。この状況の中でCharliが作り上げた一作を寝転がって聴いていいものかと思い、起き上がって音楽に耳をそばだてる。夜更かしして寝る。