ない思い出

夢を見た。土曜日の朝、二度寝したときだ。大学の友人三人と久しぶりに一緒に焼肉屋に行く夢だった。場所はおそらく大学生のとき住んでいたアパートの近所にあったホルモン焼肉屋。座敷には四人がけにしては少し窮屈な座敷机の席がある。座敷に敷かれた座布団は中の綿がへたっている。掘りごたつ式ではなく畳の席なので、長時間同じ姿勢でいると次第に脚がしびれてくる。あぐらの脚の上下を入れ替えたり、横坐りの向きを変えるとき、自分の脚が隣の友達の脚に思わず当たってしまう。

店内では、Official髭男dismの「アポトーシス」が流れている。「この曲、辛いけどいい曲だよね」と友達の一人が言うと、またもう一人の友達が共感してしみじみとしている。悲しい曲だとは話に聞いたことがあったけど、そういえば歌詞をきちんと最後まで聞いたことがなかったなと思い、焼き網の肉から音楽の歌詞に意識を向ける。

背後の座敷机では大学生らしき人たちが同じく四人で網を囲っている。そのうちの一人がサビを気持ちよさそうに歌っている。その人も「アポトーシス」が気に入っているみたいだった。店内を流れる音楽が次の曲に行っても、周りの友達に「アポトーシス」のメロディのよさを示したいようでしつこくサビを歌っていた。「もういいって」とそのほかの友達から煙たがられていた。

二度寝から目が覚める。携帯からアポトーシスが流れていた。一度目の起床の際、なんとなくまだ疲れが残っている感じと、でもそろそろ起きなきゃという気持ちとがあって、せめてベッドの上で気持ちをしゃきっとさせようと普段聴いているプレイリストを流したのだった。その中で「アポトーシス」が夢にスライドしてきたらしい。このような滑り込みの経験はこれまでも何度かあったが、妙に手触りのある夢だった。ない思い出だけど、あってほしかった思い出でもあった。