Pillow talk: intimate conversation in bed.
ドラマや映画で挿入されるピロートークシーンが好きだ。今泉力哉監督最新作の『愛がなんだ』を観て、改めてそう確信した。もっと言えば、官能的でないように思われるピロートークが好きだ。半醒半睡で交わされる会話には、自分の思いの丈がありありと表現されていたり、むき出しの攻撃性を含んでいたり、普段の日常生活の真っ只中では言わないような言葉のやりとりがある。今回は私が好きな映画やドラマの中でのピロートークを書き起こした。
『パターソン』ジム・ジャームッシュ(2016)
月曜日
パターソン起床。ローラにキスをする。
ローラ「ステキな夢を見たわ。私たち子供が2人いるの。双子よ。もし子供を作るなら双子がいい?」
パターソン「ああ。双子か。いいね。1人に1人ずつ」
火曜日
パターソン起床。ローラにキスをする。
ローラ「寒いわ」
パターソン「きれいだよ」
ローラ「古代ペルシャにいる夢を見たわ。あなたはゾウに乗ってた。大きくて銀色のゾウよ」
パターソン「銀色のゾウ?」
ローラ「あなたとても立派だった」
パターソン「古代ペルシャにゾウが?」
ローラ「いないはずよ。とにかく銀色のはね」
本作では1週間の朝の寝床の様子をあえて反復させ、繰り返される日常を繊細かつ豊かに描いている。火曜日のやりとりは本作のピロートークの中でも特に印象的だ。この日のローラは衣服を着ておらず、前夜二人がセックスをしていたことが想像される。そこからの古代ペルシャのゾウの夢、立派なゾウの夢。音声で聴くとのほほんとしたまったくいやらしさのない会話のはずなのに、その背景を勝手に想像するとどこか艶かしい。
木曜日
パターソン起床。ローラにハグする。
ローラ「夜帰ってきた時の匂いが好きよ」
パターソン「どんな匂い?」
ローラ「あなたはうっすらとビールの匂い」
直前まで見ていた夢の話をするピロートークが好きだ。オチもなにもない。でもなぜか話してしまう。たぶんこの日の夜には今朝の夢がどんなだったか本人も聞いた相手もおそらく覚えていない。それでも交わされ、相槌が打たれる会話が愛おしい。
『アトランタ』ヒロ・ムライ(2016)シーズン1エピソード1:「ペーパーボーイ」
アーンすでに起床して音楽を聴いている。
ヴァン「ウソでしょ。もう起きてるの?」
アーン「夢のせいだ。海のようなプールで手の形をした海藻と泳ぐ夢を見た。一緒にいた女の子が僕に忠告する。”手に掴まれたら溺れるわよ”」
ヴァン「意味深な夢ね」
アーン「きっと現代社会の象徴で…」
ヴァン「女の子は誰?」
アーン「知らない」
ヴァン「見た目は?」
アーン「デブだった。興味なし」
ヴァン「そう」
アーン「嫉妬か?」
ヴァン「ガッカリしたのよ。デブとか言いながら、結局その子といちゃついた」
アーン「いちゃついた?」
ヴァン「違う?」
アーン「ヴァン、認める」
ヴァン「すべて承知よ」
アーン「それはどうかな」
ヴァン「ダメよ。私息が臭い」
アーン「いいにおいだ カレー?」
ヴァン「イヤね」
アーン「カレーだ」
ヴァン「やめてって!変態」
アーン「いいにおいだぞ」
ヴァン「愛してる?」
[laughs]
ヴァン「なぜ笑ったの?」
アーン「いつもそう聞くから」
ヴァン「答えればいいのに」
アーン「愛してる」
[scoffs]
この感情のフロー!ここでのヴァンのように普段はあまり表面化せず抑えられている好き嫌いの感情がジェットコースターのようの目まぐるしく変化するのもピロートークの好きなところだ。
『マスター・オブ・ゼロ』アジズ・アンサリ(2015) シーズン1エピソード9:「モーニングズ」
デフとレイチェルのピロートーク。日本語字幕では会話の温度が十分に出ていなかったので英字。
[sighs]
Rachel: That was insane.
[both exhale]
Def: What if whenever I came, I was like this?
[gasps and grunts]
[laughs]
Def: That’s all I did. That’s how cool guys fuck. They’re just like…
[grunting]
[sighs]
[laughs]
Rachel: Um, what if, when I came, I was like—I was like,
[in a high-pitched voice] Oh, yeah!
Oh, yeah, oh, yeah, oh…[softly] yeah…
Def: Oh, no, please.
Rachel: Oh, yeah, oh, yeah, oh, yeah, oh, yeah, oh… [softly] yeah…
[laughing]
Def: God, no, no, no.
Rachel: -Oh, yeah.
Def: -No, stop. Stop fucking me.
イクときの声について話すデフとレイチェルのやりとり。モーニングズは何度も何度もふと思い出しては観たくなってしまうエピソード。
今日の仕事中ぱっと思いついたのはこの3作だけど、また思い出したら追記します。
(6/2追記)
『いつかはマイ・ベイビー』ナナッチカ・カーン(2019)
サシャとマーカスのやりとり。おそらく初体験だったと思われるマーカスがいたって慣れた振る舞いをすることに対しサシャは懐疑的な表情を隠せない。行為中は気にしないようにしていたことが事後改めて気になり思い返しているような表情。
マーカス「大丈夫?」
サシャ「うん、平気。平気?」
マーカス「最高だよ」
サシャ「コンドーム買ったの?」
マーカス「中1の時」
サシャ「誰が使い方を?」
マーカス「学校に来た女の人だよ。性教育の授業で教わった。バナナを使って」
サシャ「バナナで練習を?」
マーカス「家でバナナは必要ない」
サシャ「パルメザンの匂い」
マーカス「ああ。パルメザンだよ。車内に置いてある」
マーカス「何か食べる?」
サシャ「賛成」
色々話せば話すほどわからないことが増えてくる二人。会話が持たなくなって話題を転換しようとするもどこかぎこちない会話が続く様子が愛おしい。